【ジンとアメリカ禁酒法について】クラフトジンの種類が豊富な銀座のバー｜BARWHITEOAK

20世紀前半にジンの人気を高めたカクテルでしたが、急速にその流行が終わりを告げることとなりました。アメリカでは宗教的な理由から禁酒を推進する運動が展開され、移民の増加や酒に溺れる貧困層の増加もその影響を受けました。第一次世界大戦への参加や生産能力の向上が求められたことも、禁酒法成立の要因となりました。1919年には保守派の働きかけで禁酒法が成立し、翌年に施行されました。この法律により、酒類の製造・販売・輸送・輸出が禁止され、サロンやカクテルバー、醸造所、蒸溜所が次々と閉鎖されました。禁酒法は1933年に廃止されるまで10年以上続き、アメリカのアルコール文化は大きく後退しました。

特にジンにとって影響が大きかったのは密造酒の問題でした。海外から密輸されたジンも存在しましたが、その価格は高額でした。安価なジンを求める人々は自ら造るしかなくなり、粗悪なベーススピリッツを使用し、有害なテレピン油をジュニパーベリーの代わりに使用することさえありました。また、「バスタブジン」として知られる、バスタブで混ぜて作られる密造ジンも製造されました。このような粗悪ジンの密造は、狂気のジン時代と同様の問題であり、ジンのイメージを大きく損ないました。

さらに、マフィアが違法な酒の流通を管理し、多くの事件が発生しました。悪名高いギャング、例えばアル・カポネなどは、酒の密輸で莫大な富を築きました。違法なアルコールの売り上げを通じて何百万ドルもの利益を得たと言われています。警察に逃れて営業する「もぐり酒場」も一般化しました。皮肉なことに、禁酒法以前よりも酒の消費量が増加しました。マフィアによる酒の売買は飲酒に対するイメージを悪化させ、後の時代にも大きな影響を与えました。

一方で、禁酒法のプラスの側面として挙げられることは、カクテル文化がアメリカ以外の世界に広まったことです。才能あるバーテンダーはアメリカでの仕事が難しくなり、ヨーロッパなどで活躍の場を見つけました。ロンドンのサヴォイホテルやカフェロイヤル、パリのリッツホテルなどは、アメリカの黄金時代に負けない水準のカクテルを提供し、地元の人々に大きな人気を博しました。そして、ハリー・クラドックなどのバーテンダーがその名を歴史に残しました。もちろん、ジンのカクテルもヨーロッパで広まり、その後さまざまなレシピがアメリカ以外の地域で生まれるようになりました。

禁酒法廃止後のアメリカでは、犯罪が増加し、治安が悪化するなど複雑な状況が生まれました。禁酒法の評判は日に日に悪化し、市民の中には廃止を望む声が高まりました。1932年の大統領選挙では禁酒法が争点となり、その結果、フランクリン・ルーズベルトが勝利しました。彼の尽力で1933年に禁酒法が廃止され、アルコールが再び合法的に流通するようになりました。

しかし、カクテル文化は復活しませんでした。酒の悪いイメージや優れたバーテンダーの不足などが影響し、ジンの多様なレシピも失われました。酒造業界はカクテル文化の復活を試みましたが、限界がありました。1980年まで、本格的なジンのカクテルが世界的に通用するレベルに達することはありませんでした。バーテンダーの創造性の欠如やカクテル文化の深みと勢いの喪失が問題でした。

第二次世界大戦の勃発により、ジンの生産自体が危機に瀕しました。イギリスでは国策により、ジンの蒸溜所が工業用アセトンの製造所に転用されました。工業用アセトンは戦争に必要な破裂弾やライフルの発射に利用されるコルダイトの原料として需要が高まり、多くの蒸溜所がアセトンの生産に回されました。同様に、中立国であるベルギーやオランダでも蒸溜所が軍事転用され、ジンの生産が制限されました。

ベルギーでは1919年から66年間、バーでのジュネヴァ販売が禁止されました。これは戦争ではなく、アルコール消費を抑制するための措置でしたが、結果的には効果がありませんでした。ビールの消費が増加し、ジュネヴァ産業は衰退しました。一方、オランダのジュネヴァは人気を集めましたが、1960年代に入ると激しい価格競争に直面しました。コスト削減のためにモルトワインの含有量が少ないヤング・ジュネヴァが生産され、ジュネヴァの独自性が薄れる結果となりました。

禁酒法の時代や第二次世界大戦の影響など、様々な要因がジンのカルチャーに影響を与えました。禁酒法下では密造酒やマフィアによる酒の流通が問題となり、ジンのイメージが損なわれました。禁酒法の廃止後も、バーテンダーやジンのレシピの喪失などがカクテル文化の発展に影響を与えました。第二次世界大戦ではジンの生産が制限され、中立国でもジュネヴァ産業が衰退しました。これらの要因が組み合わさり、ジンのカルチャーは複雑な道を歩んできましたが、その中で新たな挑戦や発展の機会も生まれました。